この記事を読むとわかること
アンカークリニック船堀南の消化器病専門医、内視鏡専門医・指導医が下血・血便について、その原因や治療などについて説明しています。
下血(げけつ)、血便(けつべん)とは?
下血と血便は肛門から血が出るという点では同じ言葉ですので、一般の方が区別する必要は全くありません。医学的には、下血が上部消化管(食道や胃、十二指腸といった口に近い腸管)からの出血、血便が下部消化管(肛門に近い腸管、主に大腸や肛門)からの出血を意味します。出血源が上部消化管か下部消化管かによって対処法や治療内容が異なることもあり、医療の世界ではこの違いは重要です。実際に英語でも下血はMelena、血便はHematocheziaと別の単語になっています。ただ最近では医療者の中でもこれを区別せず混同して使用される機会が増えています。
下血・血便の色とその意味〜赤?黒?鮮血とタール便〜
下血と血便、どちらであるかはその色で大まかに判断できます。上部消化管(胃など)からの出血では血液が胃酸によって酸化され黒くなるため、下血は通常黒色便です。泥状の場合はタールにそっくりなためタール便ともいわれます。タールというのは石炭や木材などを高温で分解してできる液体のことで、タール便は黒くてドロッとしています。下部消化管出血の場合は血液がそのまま排出されるため、血便は通常新鮮血、暗赤色になります。 上部消化管出血は上述のように通常黒色便やタール便なのですが、出血量が多い場合、下血が新鮮血、暗赤色となる事があります。これは出血量が多く、胃酸に酸化される間もなくそのまま腸に流れていくためです。このような場合には便の色で出血部位を判断できないので、下血と血便が区別できません。下血か血便かは総合的に判断しますので、診察時にはその色や形、性状や頻度などを伝えるとよいでしょう。
下血・血便の原因と関連する疾患
下血・血便の原因は多岐にわたります。下血(上部消化管出血)で最も一般的なものは胃潰瘍・十二指腸潰瘍といった粘膜の深い傷です。深くなるにつれて血管に傷がつき出血を起こします。胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、良性であればピロリ菌感染、NSAIDsという種類の痛み止めの使用が原因になることが一般的です。悪性の潰瘍で下血をきたす場合は胃がん・食道がんからの出血が多いです。膵臓がんでも、大きくなって近くの十二指腸にまで浸潤すると出血をおこします。その他には急性胃粘膜障害、逆流性食道炎といった疾患も下血の原因になります。急性胃粘膜傷害や逆流性食道炎の傷は浅い事が多いのですが、粘膜表面の血管から出血し、黒色便となることがあります。急性胃粘膜障害は身体的ストレス(外傷や手術など)や薬剤などが原因になることが知られています。 血便(下部消化管出血)の原因としては痔(痔核)や裂肛(切れ痔)の頻度が高いです。その出血量はティッシュに血が付く程度のこともあれば、便器に血が垂れることもあり様々です。痔核は20歳未満では稀で、45歳~65歳に多くみられます。裂肛は20歳~40歳に多くみられ、男性よりも女性に多いことが知られています。 その他の血便の原因で、特に出血量が多くなる疾患として虚血性腸炎や大腸憩室出血があります。 虚血性腸炎は大腸の血流が悪くなり、循環障害を起こすことで起こるものです。従来60歳以上の女性に多い疾患でしたが、近年は若年でも発症する方が見受けられます。症状としては腹痛を伴った下痢ののちに血便を生じるという経過が典型で、腹痛や出血の程度がひどい場合は入院治療が勧められます。 大腸憩室出血は、大腸にできた憩室という袋状にへこんだところからの出血です。症状としては腹痛を伴わない頻回の血便という経過が典型です。40歳から多くなりますが、大半は60歳以上に発症し、男性の方に比較的多くみられます。憩室出血は概して出血量が多く、また一度血が止まっても再出血することもあるため、大腸カメラ検査による止血術、入院治療が必要です。 少量の血便が続く場合には大腸がん、直腸がんや、潰瘍性大腸炎といった疾患が隠れている場合があります。潰瘍性大腸炎は10歳代でも発症しうる難病です。大腸がんは40歳代から罹患率が高くなっていきます。少量の出血であってもダラダラと出続けて止まらない場合には貧血となり、少しの動作で息切れを起こしたり、すぐに疲れる、ふらつくなどの貧血症状を起こすこともあります。
下血・血便の診断
診察時点で下血・血便があるかどうかは、直腸診で便の色調をみて診断するのが確実な方法です。さらに出血量の程度や全身への影響を確認するために血液検査も行います。どこから出血しているのかは患者さんからのお話、問診、身体診察で予想を立て、出血源の確認のため画像検査や内視鏡検査を行います。画像検査には腹部超音波(エコー)検査やCT検査があり、出血量が多い場合には造影剤を使用した造影CT検査が有用です。内視鏡検査は上部消化管出血の場合には胃カメラ検査、下部消化管出血の場合には大腸カメラ検査を行います。出血が多く早期の診断や治療が必要で緊急性が高いと判断した場合にはそれらの検査を速やかに行います。また、必要に応じて高次医療施設での診療に切り替えます。
下血・血便の治療
治療内容は原因によって異なります。 出血が少量で体調に悪化がなく、全身状態が落ち着いていれば外来で診療を行います。消化器内科のクリニックであれば多くの場合対応できると思います。 出血量が多い、多量の出血が予想される、全身状態が悪いなどの場合では入院して緊急で治療を行います。出血の程度によって、必要であれば輸血も行います。多くの場合は内視鏡検査で出血源を探しあて、そのまま引き続いて止血術を行います。内視鏡治療で止血が困難な場合には血管内治療、外科的手術が行われます。入院期間は出血の程度や全身状態によって大きく異なり、1泊入院で済む場合もあれば週単位となる方もいます。がんなどの悪性腫瘍が出血の原因で、出血を落ち着かせた後に原病の治療が必要となれば月単位の入院となることもあります。高齢者では回復に時間がかかる場合があり、長期のリハビリが必要となる方も少なくありません。
下血・血便かな?と思ったら
下血・血便がみられた場合には、初期対応が重要です。また専門医による診察が必要ですので、消化器内科を掲げている医療機関を受診してください。
おわりに
アンカークリニック船堀南では消化器内科専門医が診療を行っています。当院で対応可能な病状であればそのまま診療を行います。必要な場合は連携する高次医療機関に速やかに紹介いたします。