この記事を読むとわかること
大腸内視鏡検査について患者様に説明すると、大腸ポリープに関してよく質問されます。ポリープはどんなものでも見つかったらすべて取った方がよいのか、取ったポリープは良性腫瘍なのか悪性腫瘍なのか、ポリープのがん化リスクについて、などなど。ここでは大腸ポリープに関する疑問を解決できるように解説しています。
大腸ポリープとその種類
胃や腸の粘膜表面が変化して、出っ張ったものを消化管『ポリープ』とよんでいます。今回のテーマである大腸ポリープでは、良性も悪性も出っ張ったものはすべてポリープとよばれています。また、大腸ポリープには頻度の高いものから稀なものまで非常にたくさんの種類があります。最新の分類では、粘膜から発生する上皮性ポリープというものだけでも20種類以上に及びます。
大腸ポリープはがん化リスクの観点で大きく2つに分けることができます。ひとつは将来がんになる可能性のある腫瘍性ポリープで、もう一方は、がんにならない非腫瘍性ポリープです。今回はなかでも大腸カメラ検査でよく遭遇するポリープ3種類について解説します。
大腸腺腫
大腸腺腫は腫瘍性ポリープ、すなわち、がん化リスクがあるポリープです。大腸カメラ検査で切除されているポリープの多くはこの大腸腺腫です。
過形成性ポリープ
こちらも大腸カメラでよくみつかるポリープです。過形成というのは、なんらかの刺激でその組織が分厚くなったもので、正常な細胞でできています。腫瘍ではなく、がんにならないポリープですので切除の必要はありません。
SSL(sessile serrated lesion)
SSLは鋸歯状病変という、過形成性ポリープと同じグループに属するポリープです。同じグループなだけあって一見すると過形成性ポリープと似ていますが、SSLは過形成性ポリープと違って腫瘍性ポリープです。がん化する可能性があるので、切除する対象となります。
大腸ポリープの原因とリスク因子は?
大腸ポリープや大腸がんの原因には、遺伝的な要因と、生活習慣などによる環境的要因が関わるとされています。 ▼遺伝的要因 稀な遺伝性の病気には家族性大腸腺腫症(FAP)、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)などがあります。これらはポリポーシスといって腸にポリープが異常にたくさん発生する病気です。原因となる遺伝子として、APC遺伝子やミスマッチ修復遺伝子という、一般にはあまり耳にしない遺伝子が関わっています。 これらの遺伝子は細胞が癌にならないようにブレーキをかけたり、遺伝情報の間違いを修正するように働く遺伝子です。そのため大腸ポリープががん化するリスクが高まります。 ▼環境的要因 食事内容(特に高脂肪・低繊維食)、肥満、喫煙、飲酒は、大腸ポリープができるリスクを増加させます。ストレスがポリープの原因として言われることがありますが、精神的ストレスが単独で直接ポリープや癌の原因となることはありません。もちろん、ストレスがきっかけで生活習慣や食習慣の変化があればその限りではありません。 食生活や肥満、喫煙、飲酒などは環境的要因とよばれ、後天的にポリープができることと関連しているのです。 最近では腸内細菌叢(腸内フローラ)といって、腸の中にいる細菌の種類やその割合などがポリープの発生に関わるのではないかという研究もあります。まだ明確にはなっていませんが、研究が進むにつれて関連性の強い証拠が示されるかもしれません。
大腸ポリープの症状
小さい大腸ポリープが何らかの症状を引き起こすことはありません。ポリープが大きくなると便に血がつくなどの症状に気がつくこともありますが、それも頻度は多くありません。ポリープががんになると、下痢や血便、急な便秘や腹痛といった症状が出る場合があります。健康診断、人間ドックなどで受ける便潜血検査は、便の中のごくわずかな血液成分でも検出することができます。症状がないうちから早期発見につなげるので、自治体をはじめとした集団健診の他、個人健診でも採用されている検査です。
大腸ポリープの診断方法
診断には存在診断と質的診断というものがあります。大腸ポリープにおいて存在診断とはポリープを見つけること、質的診断とはそのポリープの種類を診断することです。 ポリープの存在診断として最も重要なものはやはり大腸カメラ検査です。かなり大きなポリープであればCT検査などでも見つかる可能性はありますが、数mmのポリープや平べったいポリープは大腸内視鏡でなければ見つけることができません。 質的診断でも大腸カメラが非常に重要な役割を担います。先述の通り、大腸腺腫、SSL、過形成性ポリープといったよく見つかるポリープ3種類のなかでも、がん化する可能性があるものとないものがあります。大腸カメラで発見されたポリープが、多数ある分類のうちどのポリープなのか。切除すべきなのか放っておいてもいいのか。これは非常に重要な問題です。 ポリープの最終的な質的診断は、切除したポリープを病理検査(顕微鏡で観察)して下されます。もし病理検査でしか診断できないのであれば、すべてのポリープを切除しなければならなくなりますが、実際にはそうではありません。内視鏡医は切除する前に事前診断をしています。つまり、内視鏡検査でポリープをみつけた時点で、そのポリープが腫瘍性なのか、腫瘍性でないのか、癌化していないか、内視鏡での切除が可能か、切除するならばどういった方法が取り残しなく安全に切除できるか、など色々なことをその場で判断しています。 そこで重要になってくるのは拡大内視鏡検査という検査です。これはポリープの表面の構造や微小な血管を、拡大内視鏡という顕微鏡のついた大腸カメラで観察する検査です。病理検査との合致は100%ではありませんが、90%以上の精度で診断することができます。この拡大内視鏡検査の機能は市販されているすべての内視鏡スコープに搭載されている機能ではありません。しかし、あるのとないのとでは検査の質が大きく異なります。当院ではすべての大腸カメラにその装置を備え、事前診断を行ったうえで治療を行っています。 ちなみに、最近では見つかったポリープを人工知能(AI)が腫瘍性か腫瘍性でないかを判定してくれる装置も複数メーカーから市販化されています。AIがどの内視鏡装置にも標準装備される将来はそう遠くないかもしれません。
大腸ポリープの治療法
大腸腺腫、SSLなどの腫瘍性ポリープは、将来がんになることを予防できるという点で、切除するメリットがあります。非腫瘍性ポリープは将来がんにならないので、原則切除しません。ただし、ポリープが原因で他の病気を起こしている(腸重積など)、ポリープからの出血がある、などの場合は切除することもあります。 ポリープ切除には少なからず出血などのリスクを伴います。不要な切除を避けるため、内視鏡医はポリープについて、その種類や特徴を熟知している必要があります。 ポリープの切除方法、治療方法について説明します。ポリープ治療は基本的に内視鏡で行います。大きさによって方法が異なりますが、最も行われている治療はコールドスネアポリペクトミーといわれるやり方で、写真のように、スネアという金属製の輪っかを引っ掛けて切除します。1cm未満の大きさであればほぼこの方法で切除します。この方法のメリットは、切除後の出血の危険性が非常に低いことです。従来は出血しないようにスネアに電気を流して熱を与えて焼き切る方法(ホットスネアポリペクトミー、EMRなど)が一般的でした。しかし、熱を加えずにそのまま切る方が切除後の出血などの偶発症が少ないことが臨床研究によって示されたため、このコールドスネアポリペクトミーという治療方法がほとんどの内視鏡施設で一般的となっています。 引用:Toshio Uraoka. Cold polypectomy techniques for diminutive polyps in the colorectum. Digestive Endoscopy. 2014 Apr:26 Suppl 2:98-103 それより大きいサイズでも、大腸ポリープや粘膜にとどまる早期癌であれば大腸カメラの内視鏡治療で切除が可能です。基本的に内視鏡で取れない大きさという決まりはありませんが、大きなサイズの病変は入院治療が必要な場合が多いため、そのような治療を行っている病院施設で治療を受ける必要があります。
大腸ポリープや大腸がんの予防
大腸ポリープの予防はすなわち大腸がんの予防につながります。大腸がんのリスクを高めるものとして、多量の飲酒、肥満、食べ物では牛肉や豚肉などの赤肉、ハムやソーセージといった加工肉が知られています。また、喫煙も大腸がんのリスクを高めることが知られています。 大腸がんの予防策としては、節酒、運動、肥満にならないこと、また、上述の食肉や加工肉を摂りすぎないことが挙げられます。なお、国際的には食物繊維や全粒穀物、乳製品、カルシウムに大腸がんの予防効果が高いといわれています。
大腸ポリープに関するよくある質問
Q:先日大腸カメラでポリープを切除しました。今後も再発する可能性はありますか? A:はい。大腸ポリープは再発するリスクがあります。ただし、心配する必要があるポリープは腺腫やSSLといった腫瘍性ポリープですので、内視鏡でみつかったポリープがどのような種類のポリープであったかどうかが重要です。過形成性ポリープのみであった場合には、上述のように非腫瘍性ポリープですので癌化リスクはなく、再発を心配する必要はありません。腺腫やSSLは再発の可能性があり、定期的な大腸カメラ検査が必要です。 Q:大腸カメラ検査は毎年受けた方がよいですか? A:2020年に日本消化器内視鏡学会から『大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン』というものが発行されています。スクリーニングとは今まで病気にかかっていない人にとっての病気の早期発見、サーベイランスとは病気治療後の人の再発予防を意味します。大腸カメラの検査時期、間隔について日本人に向けて指針を初めて示したガイドラインです。 初回の大腸カメラ検査で特に腫瘍性ポリープが見つからなかった場合には、便潜血検査などを含めた検診での経過観察とされています。大腸カメラで検診を受ける場合は5年間隔が勧められています。 ポリープがみつかった場合、切除された場合にはそのポリープが腺腫かどうか、癌があったかどうか、その大きさや数によって次回の検査時期が定められています。 大腸カメラ検査の結果説明を受ける際には、担当医に確認するとよいでしょう。 Q:ポリープ切除を受けたあとの注意点はありますか? A:ポリープ切除、検査後の注意点として、腹痛や血便がないかを気にしておきましょう。ポリープを切除したときにわずかに出血があると、検査後も腸の中に少量の血液が溜まっているときがあります。初回の排便でわずかに血が交じる程度であれば心配はありません。しかし、何度も便意を催し、トイレに行くたびに血液が交じるような場合には検査後も出血が続いている可能性があります。頻回に血便が出るようであれば検査を受けたクリニックに連絡、相談してください。休日であっても頻回であれば休日診療を行っている医療機関に連絡してください。 Q:ポリープ切除は保険適応ですか? A:大腸ポリープ切除は、健康保険の適応になります。人間ドックで大腸カメラ検査を受けた際にポリープがみつかり、その場で治療を受けた場合も保険診療となる場合がありますので、内視鏡検査の前に医療機関に確認しておくとよいと思います。
まとめ
大腸カメラ検査は癌を予防できる検査です。大腸ポリープや早期癌の治療後はもちろん、大腸ポリープがまだない時期からも適切な間隔で定期的に大腸カメラ検査を受けることで、大腸癌で助からないといった事態になることを99%以上防ぐことができます。症状がない時期から大腸カメラ検査を受けることも、癌の早期発見につながります。 アンカークリニック船堀南では内視鏡専門医、指導医が大腸カメラ検査を担当します。検診、便潜血検査でひっかかった、大腸ポリープって前に言われたけどしばらく内視鏡を受けていない、大腸癌を手術したっきり大腸カメラの定期検査を受けていない、といった方はもちろん、血便や腹痛など気になる症状がある方は一度ご相談ください。