胃食道逆流症(GERD)とは?
内科・消化器内科のクリニックには、「胸やけ」の症状を訴えて来院される患者さんが多くいらっしゃいます。中には「少し気になる程度」という軽症の方もいれば、症状がだんだん悪化して、「食事が通らず吐いてしまう」といった重い症状で来院される方もいます。 先日来院された患者さんは、胃カメラ検査(上部内視鏡検査)を行ったところ食道が著しく狭くなっており、通常のスコープ(直径1cm程度)すら通過しない状態でした。胃食道逆流症(GERD)の中でも重症の逆流性食道炎と診断し、高次医療機関に内視鏡治療を依頼しました。後日、無事に治療を終えたその患者さんが報告に再度来院され、現在は症状もなく、体調も良好で定期的に通院されています。 胃食道逆流症(GERD)は、進行すると出血や食事の通過障害などの合併症を引き起こすことがあります。しかし早期に診断して治療を行えば、これらの合併症は防ぐことができます。 この記事では、GERDの症状・原因・診断・治療などをわかりやすくご説明します。
この記事のポイント
・GERDとは、胃の内容物が食道に逆流することで起こる不快な症状の総称です ・GERDの主な症状は胸焼けと呑酸(酸っぱい液体が喉元に上がってくる感じ)です ・原因としては、下部食道括約筋(LES)の一過性の弛緩、胃酸分泌の過剰、生活習慣などが挙げられます ・GERDは、医師による問診と内視鏡検査(胃カメラ検査)で診断します ・GERDは「逆流性食道炎」と「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」に分類されます ・治療は薬物療法と生活習慣の改善が基本で、合併症に対しては内視鏡治療や外科的手術が必要なことがありますGERDの主な症状は胸やけ・呑酸
GERD(胃食道逆流症)の代表的な症状は、以下のようなものです。 ・胸やけ(胸の奥が焼けるような感じ) ・呑酸(酸っぱい液体が喉元まで上がってくる感じ) ところで皆さんは「胸やけ」と聞いてどのような症状を思い浮かべるでしょうか。文字どおり「胸の奥が焼けるようだ」と表現されることが多いですが、実際には人によって感じ方が異なります。「熱い感じ」「つかえるような違和感」「痛みに近い」など表現はさまざまです。 これは、身体の内側で起こる感覚は共有が難しく、言葉の解釈に個人差が出やすいためです。そのため診察で「胸やけがあります」という患者さんには、具体的にどのような感じなのかをご自身の言葉で詳しくお話いただくことを大切にしています。 また、GERDでは以下のような症状もみられます。 ・のどの違和感や痛み ・食事がつかえるような感じ ・胸の痛み ・長引く咳 ・声のかすれ これらは胃酸の逆流以外にも、複数の要因が組み合わさって症状が出ていると考えられています。症状の程度も人によって大きく異なり、少し気になる程度で済む方もいれば、食事を制限せざるを得ないほど生活の質(QOL)が低下する方もいらっしゃいます。
GERDの原因は?
逆流が起こるしくみ
胃と食道のつなぎ目には、LES(下部食道括約筋:Lower Esophageal Sphincter)という筋肉があり、食道を締め付けることで胃の中のものが食道側に逆流しないよう、弁の役割を担っています。通常は食べ物を飲み込んだ際に連動してLESが緩み、食道から胃の中に食物が流れます。その後再びLESが収縮し胃から食道への逆流を防いでいます。 GERDの患者さんでは、飲み込みと関係ないタイミングでこのLESが一時的に緩み、胃酸が逆流してしまいます(これを「一過性LES弛緩」といいます)。 また、「食道裂孔ヘルニア」があると、LESの働きが弱まり、逆流が起こりやすくなります胃酸の過剰な分泌が関係する
GERDでは胃酸の分泌量が多いことも原因の一つです。消化に重要な胃酸ですが、その分泌能力には個人差があり、ピロリ菌感染の有無が大きく関与しています。ピロリ菌感染により胃粘膜の萎縮が進行すると胃酸分泌は低下しますが、ピロリ菌未感染の方では胃酸分泌が保たれているため、GERDのリスクが高まります。日本ではピロリ菌除菌が進んだことでGERD患者が増えていると考えられています。生活習慣との関係
次のような生活習慣もGERDを悪化させる原因になります: ・食べすぎ・脂の多い食事、アルコール摂取 ・就寝直前の食事や、食後すぐに横になる ・肥満や高齢による円背(背骨の曲がり) ・腹圧がかかる運動や筋力トレーニング逆流性食道炎と胃食道逆流症の違い
『胃食道逆流症』という用語は近年になってできたものです。以前は、胸やけや呑酸などの症状、病態を『逆流性食道炎』と総称していましたが、胃カメラ検査で食道に炎症がないケースもあることが明らかになりました。そこで、現在は以下のように分類しています。 ・逆流性食道炎 胃酸逆流により、食道にびらんや炎症がある場合 ・非びらん性胃食道逆流症(NERD) 胃酸逆流はあるが、びらんがみられない場合 この両者を併せて「胃食道逆流症(GERD)」と呼んでいます。
GERD診断の流れ
胃食道逆流症は、医師による問診と内視鏡検査(胃カメラ検査)で診断します。
問診と診察
胃食道逆流症の診断の第一歩は、患者さんからの詳しい症状の聞き取りです。胸やけ・呑酸の背景に、心疾患や胃潰瘍など他の疾患が隠れていないかも慎重に確認します。内視鏡検査(胃カメラ検査)
胃カメラ検査では実際に内視鏡で食道を観察し、食道にびらんや炎症がないかを確認します。逆流性食道炎であった場合には、その重症度の評価も行います。また、胃食道逆流症と似たような症状を起こす他の疾患が隠れていないかも確認します。例えば、胃潰瘍、胃がん、食道がん、他の食道炎として好酸球性食道炎といったものが挙げられます。 胃カメラ検査では必要に応じて食道粘膜を一部採取(生検)して、病理検査で詳しく調べます。他の検査の選択肢
胃酸逆流を確認する特殊な検査として、24時間pHモニタリングや食道内圧検査がありますが、これらは専門施設でのみ実施されることが多いです。GERDの治療
治療の目標と目的は?
治療の目標は、GERD症状のコントロールと合併症の予防です。 ・GERD症状のコントロール 完全に症状が消失することを目標にします。特に夜間の胃酸逆流を抑えることは、QOL向上に特に効果的です。 ・合併症の予防 GERDの合併症には出血とそれによる貧血、食道狭窄、バレット食道、食道腺癌の発生(詳細は食道がんのコラムにも記載しています)が挙げられます。これらは逆流性食道炎が重症なほどおきやすくなります。早期に診断し治療を行うことができれば、合併症の多くは防ぐことができます。薬物療法
胃酸分泌を抑制する制酸剤を使用します。 ・PPI(プロトンポンプ阻害薬) :ランソプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールなど ・P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー):タケキャブ®︎ 薬の選択は患者さんごとに異なります。症状の程度や出方、内視鏡所見に応じて総合的に判断して決めていきます。治療開始後も効果をみながら適宜調整します。 市販薬(OTC)でも効果がある場合もありますが、合併症を防ぐためには医師の診断に基づいた治療が重要です。生活習慣の改善
以下の生活習慣は、GERD症状の改善に有効です。 ・食後すぐ横にならない ・就寝前2〜3時間の飲食を避ける ・肥満の改善 ・枕を高くする外科的治療、内視鏡治療
食道狭窄(食道炎によって食道が狭くなった場合)には、胃カメラによるバルーン拡張術を行います。これは胃カメラから風船がついた処置具を出して、狭窄部を鈍的に広げる治療法です。多くの場合一度では完了せず、何度か繰り返し拡張処置を行う必要があります。 薬で効果が乏しいGERDに対しては外科手術を検討する場合もありますが、適応は限られます。再発と継続治療
初回治療で症状が消失しても、薬の終了後に再発する方もいます。その場合は維持療法という長期的管理が必要になります。どういった時に受診すればいい?
以下のような症状がある場合は、早めの受診をおすすめします: ・週1回以上の胸やけや呑酸がある ・薬を飲んでも改善しないGERD症状 ・のどの違和感や咳が3週間以上続く場合 このような症状がある方はもちろん、自分の症状がGERDなのかわからないといった方も一度消化器内科を受診することをお勧めします。
当院での診療について
当院では胃食道逆流症の患者さんへ、消化器病専門医が診察を行い、内視鏡専門医・指導医による内視鏡検査にも対応しています。鼻からの胃カメラ検査や鎮静薬を使用した胃カメラ検査で、苦痛の少ない検査体制も整えています。ご希望があれば女性医師による診療も可能です。Web予約・LINE予約・電話予約、いずれにも対応しています。
まとめ
胃食道逆流症(GERD)は、多くの人が悩まされる身近な病気ですが、放置すると重症化したり、その辛い症状のために生活の質(QOL)が大きく損なわれます。早めに医師へ相談し、適切な診断と治療を受けることで、快適な生活を取り戻すことができます。