ピロリ菌とは?
ピロリ菌は正式名称をヘリコバクター・ピロリといいます。大きさは1000分の4mmととても小さく、らせん状の形をした細菌です。ピロリ菌は胃の粘膜に感染します。胃の中は、胃酸で非常に強い酸性状態であるため、通常細菌は生きていられません。しかし、ピロリ菌は酸を中和する酵素を出して酸から身を守ることができるため、そういった過酷な環境下でも生きることができます。
ピロリ菌の原因は?どうやって感染するの?
ピロリ菌は、胃内の免疫の発達が不十分な幼少期に口から体内に入って感染すると考えられています。胃酸が強くないために感染しやすいとの仮説がありますが、正確には解明されていません。自然界では土の中にいるため、井戸水を飲むことはピロリ菌に感染する機会になります。それもあって上下水道が十分に整備されていない環境で幼少期を過ごした年代でピロリ菌の感染率が高い傾向にあります。また、ピロリ菌に感染した親が咀嚼した食べ物を幼少期に与える、同じ箸やスプーンを使う、などの機会があるとピロリ菌は家庭内でうつります。免疫が成熟している大人になってからピロリ菌に感染することは、衛生環境の整った現在の日本では極めて稀で、夫婦間で感染することも通常はありません。
ピロリ菌感染の症状と、感染によって起こること
ピロリ菌は、胃粘膜に感染すると炎症を起こし、ヘリコバクター・ピロリ胃炎という状態になります。ほとんどの人は無症状ですが、胃痛、胃もたれ、胸焼けといった症状が出る人もいます。また、ピロリ菌が胃酸に対抗するための反応でアンモニアが発生するため、口臭が強くなるともいわれています。
ピロリ菌は胃粘膜の表面の粘液を減らし、粘膜を剥がし落とします。その結果胃粘膜に炎症が起きます。この炎症が胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こしたり、長きにわたって胃炎の状態が続くことで胃粘膜が全体的に薄くなり、萎縮性胃炎という慢性胃炎の状態になります。
萎縮性胃炎は胃癌が発生する素地であり、胃癌のほとんどはピロリ菌に感染して炎症をおこした、この慢性胃炎の胃粘膜から発生します。また、ピロリ菌の感染をきっかけに胃粘膜にMALTというリンパ組織が発生し、そこからMALTリンパ腫という腫瘍ができることがあります。そのほかにも原因は正確には解明されていませんが、ピロリ菌は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)という血液の病気とも非常に関わりがあります。MALTリンパ腫、ITPともに、ピロリ菌に感染していた場合にはピロリ菌の除菌治療をまず行います。除菌治療でそれらの病気自体が完治する事もあります。
ピロリ菌の検査方法
保険診療では、胃カメラでピロリ菌感染が疑われた場合に限りピロリ菌の検査を行うことができます。つまりいきなりピロリ菌の検査だけをすることはできません。事前に胃カメラ検査を受け、ピロリ菌による慢性胃炎と診断されてはじめて保険診療でピロリ菌の検査ができます。
ピロリ菌の検査は、内視鏡を使う検査と、使わない検査にわけられます。
<内視鏡を使う検査>
「迅速ウレアーゼ試験」、「鏡検法」、「培養法」があります。この3つの検査はいずれも胃カメラ検査で胃粘膜をつまみ、組織を採取して検査します。
<内視鏡を使わない検査>
「尿素呼気試験」、「抗体法」、「糞便中抗原測定」があります。「尿素呼気試験」は、試薬を飲んでもらった前後の呼気を袋に取って検査します。「抗体法」は血液検査または尿検査です。いずれかを採取して検査を行います。「糞便中抗原測定」は便を採取して検査します。
いずれの検査も有効ではありますが、あまり選択されない検査もあります。内視鏡を使う検査は組織を採取するので、胃粘膜から出血するリスクがあります。そのため他の検査に比べて専門施設以外で行われることは少ないです。専門施設ではピロリ菌と抗菌薬の相性を調べる検査(薬剤耐性検査)を行う場合があります。それには胃カメラ検査で胃粘膜(に感染しているピロリ菌)を採取する必要があり、内視鏡を使う検査が行われます。
尿中抗体検査は、実際には菌がいるのに陰性の結果が出ること(偽陰性)が他の検査に比べるとやや多いため、実際の診療現場ではほとんど使用されません(簡便なため一部自治体の健診では使用され、また市販もされています)。したがって昨今ほとんどの医療施設で一般的に行われるピロリ菌の感染診断検査は、尿素呼気試験、血液検査で行う血清抗体検査、便中抗原検査の3種類となっているのが実状です。
ピロリ菌の除菌治療とその方法
胃カメラ検査でピロリ菌の感染が疑われ、ピロリ菌検査で陽性が判明した場合には除菌治療を行います。治療は飲み薬で行います。胃酸を抑える薬1剤と抗菌薬2種類の計3剤(ボノプラザン、アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1日2回、計7日間服用して治療します。
除菌治療は2015年に発売されたボノプラザン(タケキャブ錠)が使用されるようになって成績が良くなりました。初めて除菌治療を受ける方の93%で除菌が成功したとの研究結果もあります。この初回治療で除菌に失敗した方は、薬の内容を変更して再度治療を行います(2次除菌といいます)。
除菌が成功しているかどうかを判定する検査は、正しい結果を得るために除菌治療後しばらく間を開ける必要があります。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは尿素呼気試験や便中抗原検査では4週間以上、血液検査では半年以上あけることとされ、方法については尿素呼気試験、便中抗原検査いずれかもしくは両方で判定を行うことが推奨されています。重要な事は除菌判定をしっかり行い、結果を明確にすることです。
除菌治療に副作用はある?心配な症状は?
除菌治療では一部の方で副作用がみられます。最も多いものは下痢、味覚異常で2-3割の方に出現するとされます。その他では腹痛、食欲低下などもあります。軽い症状であれば我慢して治療を続けてもらうようにお願いしています。しかし過度な下痢や腹痛症状、皮膚にぶつぶつが出る(薬疹といいます)などの強い副作用症状が出た際には速やかに服薬を中止して、治療を受けている医療機関に連絡をしましょう。
ピロリ菌の再感染について
『ピロリ菌を除菌したのに、また感染した』という、”ピロリ菌の再感染”、”ピロリ菌の再発”という話をきくことがありますが、成人になって感染するということは衛生環境の整った現在の日本では非常に稀です。再発と言われる多くの場合は、除菌に失敗しているのに成功と判定されてしまい、後に感染が続いていることが判明したか、実際には除菌できているのに、検査結果が陽性に出ることで再度感染したと判断されるような状況がほとんどです。たとえば血液検査の抗体検査は、除菌治療が成功すると数値は低下しますが、判定する半年を経過した後も基準値をこえた陽性反応が続くことが少なくありません。実際にはピロリ菌がいないのに、検査は陽性反応を示す偽陽性となるわけです。検査方法によって結果が異なる事はあります。検査について十分に理解している医師に判断してもらうことが重要です。
除菌治療が完了した後も安心はできない
除菌治療が成功した方も安心はできません。除菌治療を行うとピロリ菌による胃粘膜への影響は進行しなくなりますが、それまでに被った胃粘膜の萎縮が完全に元にもどる事はありません。そしてそのような胃粘膜から胃癌は発生します。
除菌治療を行うと胃癌の発生リスクを1/3程度まで減らすことができますが、それでもゼロにはなりません。そのため除菌治療後は、胃癌が発生した際にいかに早期の段階で見つけて治療できるかが重要となります。多くの早期胃癌は内視鏡治療で切除し根治することができます。除菌治療後も定期的に胃カメラ検査を受けることが非常に重要です。
まとめ
『健診でピロリ菌感染を指摘された』、『以前に除菌治療を受けたが、結果がわからない』、『除菌治療は完了したがそれ以降胃カメラは受けていない』そのような方はお早めに医療機関を受診して下さい。アンカークリニック船堀南では、ピロリ菌治療、早期胃癌治療を数多く行ってきた専門医が診療を行っています。疑問や受診に迷うような場合にも一度当院にお問い合わせ下さい。