この記事のまとめ
便秘で悩む方は非常に多く、当院の外来にも毎日のように症状を訴えて受診されます。しかし「たかが便秘」と侮れず、背後に重大な病気が隠れていることもあります。実際に「便秘で薬をもらったけど便がでない」と来院された方が、大腸癌による腸閉塞だったという例も少なくありません。 この記事では、江戸川区船堀にあるアンカークリニック船堀南の消化器内科専門医が、便秘症について、原因や治療法、受診の目安などをわかりやすく解説します。
この記事のポイント
● 便秘とは「便の回数が少ない、またはうまく排便できない状態」です。 ● 便秘には一次性と二次性があり、最も多いのは一次性の中の機能性便秘症です。 ● 機能性便秘症は、不規則な生活習慣や食生活、運動不足、加齢やホルモンバランスの変化、ストレスなどが関係します。 ● 医療機関では、まず機能性便秘症以外の原因を除外し、そのうえで病状に応じて薬を調整します。 ● 食習慣では、食物繊維(特に水溶性食物繊維)を十分な水分とともに摂取することが効果的です。 ● 以下の症状がある場合は重大な病気が隠れている可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。 1, 突然便秘になった 2, 血便がある 3, 半年で予期しない3kg以上の体重減少 4, 腹痛、発熱、嘔気を伴う便秘とは何か?―医学的な定義
皆さんは「便秘」と聞いてどのような状態を思い浮かべるでしょうか。「3-4日便が出ていない」「トイレでいきんでも便が出ない」など、人によって便秘のイメージは異なります。日本の「便通異常症診療ガイドライン2023」では、便秘症を「排泄すべき糞便が大腸内に滞り、兎糞状便・硬便,排便回数の減少、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義しています。ちなみに排便回数の減少は「週3回未満」とされています。 簡単にまとめると、便秘症は「便の回数が少ない、またはうまく排便できない状態」です。 なお、排便回数の減少、排便困難症状(強いいきみ、残便感、直腸肛門の閉塞感)の2つは両方揃っている必要はありません。毎日便が出ていても、便が「硬い・強くいきまないと出ない・小分けになる・残便感がある」などの症状がある場合も便秘症に含まれます。
便秘の原因は?―生活習慣・疾患・薬剤の影響
便秘症は大きく2つに分けられます。 ● 一次性便秘症:それ自体が原因で起こる便秘 ● 二次性便秘症:薬や病気が原因で二次的に起こる便秘 詳しくは以下の表のようになります。
● 一次性便秘症機能性便秘症 | 腸の動きや働きの異常 | |
---|---|---|
非狭窄性器質性便秘症 | 慢性偽性腸閉塞症 | 消化管の動きが極端に悪くなり、腸が詰まってはいないのに、腸閉塞と同じような症状がつづく疾患 |
レクトシール(直腸膣壁弛緩症・直腸瘤) | 女性において、直腸前方と膣の間にポケットができ、便がポケット側に逃げてしまいうまく排便できない(直腸前方と膣の間の壁が薄くなる、あるいは緩くなることで起こる) |
薬剤性便秘症 |
薬の副作用で生じる便秘症 例)抗コリン薬、抗うつ薬、抗精神病薬、麻薬性鎮痛薬など |
症候性便秘症 |
内科疾患の一症状として便秘をおこしているもの 例)糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病など |
狭窄性器質性便秘症 |
腸が狭くなって起こる便秘症 例)大腸癌、炎症性腸疾患などによる消化管狭窄 |
病院でうける便秘診療とは?―内科での診療内容
便秘症の中で、最も多いのは機能性便秘症です。それ以外の便秘症には危険な病気が含まれているので、最初に行うことは機能性便秘症以外の便秘を確実に除外することです。
問診と診察
便秘の期間、排便回数や便の性状、生活習慣、薬剤の使用歴などを詳しく確認し、身体診察を行います。必要な検査
問診と身体診察のみで診断できることも多いですが、以下のような検査が必要な場合もあります。 ・血液検査 ・腹部X線検査 ・腹部超音波検査 ・大腸カメラ検査機能性便秘症の原因は?
腸の動きが弱い(大腸通過遅延型便秘症)
腸が便を押し出す動き(ぜん動運動)が弱くなり、便がゆっくりしか進まないために便秘になります。 腸の神経や筋肉の働きが弱くなっている人が含まれます。肛門の筋肉がうまくゆるまず出せない(便排出障害)
便を出そうとするときに、本来ならゆるむはずの肛門の筋肉がうまくゆるまず、逆に力んでしまいます。便意を感じにくい
直腸(便がたまるところ)の感覚が鈍く、便意を感じにくいために便が長くたまってしまいます。生活習慣
● 食物繊維不足:野菜や海藻などの繊維が足りないと便が固くなりやすい ● 水分不足:十分な水分をとらないと便が硬くなる ● 運動不足:体を動かさないと腸の動きも弱くなりやすい腸内細菌の乱れ
便秘の人とそうでない人では腸内細菌の種類が変わっていることが分かっています。ヨーグルトなどのプロバイオティクスで改善する場合もあり、腸内細菌が便秘に影響すると考えられています。加齢・性別・ストレスなど
● 女性や高齢者に多いことから、性別や加齢が便秘に関係しています。 ● ストレスや気分の落ち込みなど心の状態も便秘に関係します。便秘を予防・改善する生活習慣のポイント
生活習慣や食生活の改善は便秘治療の基本で、まず行うべき治療です。
規則正しい生活と排便習慣
口から摂取した食物は、消化・吸収されたのち、大腸へ到達して便となります。その後S 状結腸(直腸から20-30cm奥の大腸)まで移動し、そこに留まります。起床や食事摂取をきっかけとして大きな腸蠕動が引き起こされ(胃結腸反射といいます)、一気にS 状結腸から直腸へ便が流れ込み、便意がおこります。 しかし生活が不規則、朝食を食べない、などの生活ではこの大きな腸蠕動が誘発されないため、便秘になりやすくなります。 便意を感じたら必要以上に我慢せずトイレへ行くという、自然な排便習慣がとても大切です。なお、直腸知覚が正常な人において、便意がないときの直腸は空なので、いきんでも便は出てきません。食物繊維の摂取
特に水溶性食物繊維は、水に溶けてゲル状となることで便に適度な水分を与え、便を柔らかくします。中でもサイリウム(オオバコ由来)は、慢性便秘症の患者さんの排便回数や便の硬さを改善することが複数の臨床試験で示されています。便秘薬の中の「膨張性下剤」に含まれていますが、健康食品として市販されています。 不溶性食物繊維は、野菜やきのこに多く、水に溶けず便の「かさ」を増やして腸を刺激します。腸の動きが極端に弱い人やガスがたまりやすい人は便秘や腹部膨満感が悪化することがあります。 一般的に食物繊維は1日あたり20g程度(厚生労働省の基準では、成人男性21g/日以上、成人女性18g/日以上が目標とされています)が目安です。そのうえで、水溶性と不溶性を2:1くらいの割合とするのがベストです。種類 | はたらき | 主な食品例 |
水溶性食物繊維 |
・便をやわらかくする ・善玉菌のエサになる ・便秘の改善に効果的 |
オオバコ(サイリウム)、海藻類(わかめ、こんぶ、ひじき)、こんにゃく、 オクラ、山芋、モロヘイヤ、大麦、果物(りんご、みかん、バナナなど) |
不溶性食物繊維 |
・便のかさを増やす ・腸のぜん動運動を刺激する ・とりすぎるとお腹が張ることもある |
野菜(キャベツ、白菜、レタス、ブロッコリー、ゴボウ、かぼちゃ)、豆類(大豆、枝豆、おから)、 きのこ類、穀物(玄米、雑穀、ライ麦パンなど) |
水分摂取
目安は健常人で1日1.5L~2Lほどです。ただし心疾患や腎疾患のある方は、医師の指示に従ってください。 水分摂取で便秘症が改善するとよく言われますが、実は便秘症の治療としての単独のエビデンスは乏しいです。ただ、食物繊維(特に水溶性食物繊維)を摂取する際に十分な水分を合わせてとることで効果が高まることを示した臨床試験はあります。日本のガイドラインもそれに則して「水分摂取を心がけることを推奨」としています。 参考文献)Chung et al., 1999, Eur J Clin Nutr運動習慣
身体活動や運動量が低下すると腸蠕動も減少し、慢性便秘症の悪化に関連する可能性があります。 参考文献)便通異常症診療ガイドライン2023.市販薬での便秘治療や注意点―落とし穴も?
市販の便秘薬を用いて対処されている方も多いですが、少し注意が必要です。 まず、市販の便秘薬は以下の3種類に分けることができます。製品によって1種類だけの場合もあれば、複数種類の成分が組み合わされている場合もあります。そのなかで注意が必要なものは刺激性下剤です。刺激性下剤は長く使用すると効かなくなってしまったり、腸が黒く変色してしまう(大腸メラノーシス)場合があります。● 浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)
水分を腸内に引き込み、便を柔らかくします。比較的安全性が高い薬です。腎機能低下がある方はマグネシウムが体内に蓄積することがあり、定期的な血液検査が推奨されています。
● 刺激性下剤(センナ、ビサコジル、ピコスルファート、大黄、アロエなど)
腸の蠕動運動を刺激して排便を促します。長期間使用すると効果が落ちたり、腸の機能が低下するリスクがあります。また、腸の粘膜が黒く変色する(大腸メラノーシス)場合があります。なお、メラノーシスは色素沈着であって病気ではなく、がんに進展するようなこともありません。
● 膨張性下剤(食物繊維系 サイリウムなど)
便の量を増やす作用があり、自然な排便を促す目的で使われます。
自己判断で長期使用せず、改善しない場合は医療機関で相談してください。
病院でできる便秘治療とは?
薬物療法
生活習慣を改善しても便秘がよくならない場合、症状が強い場合などは薬物療法を追加します。 医療機関で使用する便秘薬も市販薬と同じで、刺激性下剤とその他の下剤に分けられます。中には市販薬と同じ成分のものもあります。 市販薬にはない種類としては以下があります。 ● ルビプロストン(アミティーザ) ● リナクロチド(リンゼス) ● エロビキシバット(グーフィス) これらは小腸に作用して腸内の水分を増やし、自然な排便を促します。腸の機能に作用するタイプの薬もあります。 刺激性下剤以外で便通コントロールを行い、刺激性下剤は頓用(必要なときだけ使う)とするのが現在の便秘薬物療法のスタンダードです。 便秘薬は患者さんごとに適した薬が異なり、用法用量も調整が必要です。そのため薬の調整がつくまでは比較的短い受診間隔で診察することになります。便秘で病院を受診すべきサインとは?
便秘治療では、形のある硬すぎない便がでることを目標にします。以下のような症状がある場合は、医療機関を受診してください。
● 便秘と下痢を繰り返す ● 市販薬で改善しない ● 長年ほぼ毎日市販の下剤を使っている ● 排便時に強くいきまないと出ない ● 排便後も残便感がある
なかでも便秘とともに、以下のような症状がある場合には注意が必要です。
● 突然便秘になった ● 血便がある ● 半年で予期しない3kg以上の体重減少 ● 腹痛、発熱、嘔気を伴う これらは器質的疾患(大腸がんや腸閉塞など)のサインである可能性がありますので、医療機関を受診してください。
まとめ
便秘は「仕方がない」ものではなく、また「体質」だけの問題でもありません。適切な診療により改善可能です。江戸川区船堀のアンカークリニック船堀南では、消化器内科専門医が便秘症に対する丁寧な診察・治療を行っています。便秘でお困りの方はぜひ一度ご相談ください。