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最終更新日 2024.5.7

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消化器内科専門医が解説する胃がん ~原因や症状、治療と予防について~

 

この記事のまとめ

日本人にとって、胃がんはいまだに多くの方が罹患する主要ながんの一つです。当院でも開院以来、早期胃がんから進行胃がんまで数多くの胃がんを診断してきました。
しかし、胃がんはピロリ菌の除菌や定期的な胃カメラ検査によって「発症を防ぐ」「早期に発見して完治する」可能性の高いがんでもあります。 この記事では以下の内容を、消化器内科専門医、内視鏡専門医の立場から、江戸川区船堀にあるアンカークリニック船堀南の医師がわかりやすく解説します。 ● 胃がんがどのようにして起こるのか(最大の原因=ピロリ菌) ● 初期に自覚症状がほとんどない理由 ● 胃カメラ検査が早期発見・早期治療の鍵となる理由 ● 進行度に応じた治療法(内視鏡治療・手術・抗がん薬治療など) ● 胃がんを予防するためにできること 「胃がんは怖い」と感じている方も、「自分には関係ない」と思っている方も、この記事を通じて“胃がんは防げる病気” であることを知っていただければ幸いです。

胃がんとは?

胃がんは、胃の内側の粘膜に発生する悪性の腫瘍です。日本では古くから患者数の多いがんとして知られています。近年は、胃がん検診の普及やピロリ菌除菌治療の保険適応により、その発症数は減少傾向ですが、それでも毎年多くの方が新たに診断されています。 2021年のがんの部位別統計では、胃がんは男性で第3位、女性で第4位でした。

胃がんの原因と危険因子~ピロリ菌は最大のリスク~

胃がんの主な原因、発生リスクは以下のとおりです。


● ピロリ菌感染

胃がんの最大の原因とされるのがピロリ菌です。日本人の胃がんの9割以上がピロリ菌感染に関連しています。感染することで慢性的な炎症(萎縮性胃炎)を引き起こし、長い年月をかけて胃がん発生の土壌を作ります。ピロリ菌に関しては こちらの記事 を参照ください。

 

● 食生活

塩分の多い食事は胃がんの発生リスクを高めるという疫学データがあります。

 

● 生活習慣

喫煙や過度の飲酒は、胃がん発症リスクを上昇させます。

 

● 遺伝的要因

胃がんになりやすい遺伝子変異が家系にある場合もあります。

 

● 自己免疫性胃炎

自身の免疫が胃に対して働いてしまうことで胃粘膜が炎症を起こし、慢性胃炎(萎縮性胃炎)に至ってしまう病気です。胃がんのほかにも神経内分泌腫瘍という、がんとは異なる悪性腫瘍の発症リスクでもあります。

 

参考文献)Wu D et al. Front Nutr. 2022 Oct 21;9:1001982
Fang X et al. Eur J Cancer. 2015 Nov;51(15):2387-2396.

胃がんの症状とは?

胃がんは、初期の段階ではほとんど症状が出ないがんです。初期では胃の表面の粘膜にわずかに変化が出る程度なので症状はなく、大きくなるにつれて症状が出現します。そのため自覚症状が出るころには進行しているケースも少なくありません。 胃がんでみられる代表的な症状として、以下に挙げます。

● 胃の不快感、胃もたれ
● みぞおちの痛み
● 食欲低下
● 体重減少
● 吐き気や嘔吐
● 真っ黒い便(消化管出血のサイン)

ただし、これらは胃炎や胃潰瘍、胃酸による過敏症などでもみられます。軽度の症状であれば、「気のせい」や「疲れ」と思ってしまうこともあるかと思います。症状が長引く、または強い場合は、医療機関を受診することをおすすめします。

胃がんの検査方法、診断方法~胃カメラ検査の重要性~

胃がんを見つけるための検査には、以下のようなものがあります。

胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)


最も確実で精度の高い検査です。口や鼻から細いチューブ状のカメラを入れて、胃の中を直接観察する検査法です。胃がんを疑う部分があれば、その場で組織を採取して詳しく調べることができます(生検といいます)。 最近は苦痛を少なくするために鎮静薬を使用する、鎮静下内視鏡検査を行う医療機関も増えています。

バリウム検査(胃透視検査)

健診で行われることが多い検査です。バリウムを飲み、胃に張り付いたバリウムを利用してレントゲンで胃の形を調べます。異常があった場合は胃カメラでの精査が必要です。

CT検査、腹部超音波検査(エコー検査)

がんが大きくなればCTやエコー検査でも胃に異常が出ることはありますが、早期の胃がん診断には不向きです。むしろ診断がついたあと、がんの広がり具合を調べるためには非常に重要な検査です。

胃がんの治療法

胃がんの治療法は、がんの進行度や患者さんの全身状態によって異なります。

内視鏡的治療(ESD・EMR)

早期の胃がんで、リンパ節転移の可能性がない場合に行います。胃を切らずに内視鏡でがんを取り除く方法です。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、内視鏡先端からナイフと呼ばれる電気メスを出して、がんをその周囲の組織ごと剥がし取る治療法です。EMR(内視鏡的粘膜切除術)はスネアという金属の輪っかでがんを切り取ります。いずれも切除した検体を病理検査医が顕微鏡で診察し、進行度を診断します。早期のがんで転移リスクがない場合、これらの内視鏡治療で胃がんを根治することができます。 ピロリ菌除菌後などで定期的に胃カメラ検査を受けている方にとって、検査の最大の目的は、内視鏡治療で根治が可能ながん、すなわち“早期がんを見つけること”です。

外科手術(胃切除術)


がんが進行し、内視鏡治療では根治が得られない場合、胃の一部または全部を切除する外科手術が必要になります。その際、必要に応じてリンパ節も取り除きます。近年は腹腔鏡手術や、ロボット支援下手術(ダヴィンチなどの手術支援ロボット)といった、身体の傷が少なくて済む低侵襲手術が主流です。


抗がん薬治療(化学療法)

手術後の再発予防や、転移が進み手術では根治できない進行がんには、抗がん薬治療が行われます。薬は種類によって飲み薬と点滴薬があり、一部入院で行うものもありますが、多くの抗がん薬治療は外来通院で行います。また、最近では免疫チェックポイント阻害薬という、自身の免疫力を利用してがんを治療する新しいタイプの抗がん薬(がんゲノム医療)も登場しています。
 日本では、最良のがん治療は基本的に保険診療で受けることができます。 近年、自由診療でがん治療を提供する医療機関が散見されます。しかし、その中には十分なエビデンス(効果が得られたと科学的に証明された質の高い研究)がない治療も含まれています。 藁にもすがる思いのがん患者さんに対して、根拠の乏しい治療を高額で提供する、営利目的としか思えない自由診療クリニックが存在することは残念でなりません。 何よりもまず誤った情報に惑わされないことが、がん治療においては非常に重要です。

胃がんの予後と生存率

胃がんはごく早期に見つかれば、ほとんどの方が根治できます。リンパ節転移リスクの非常に少ないステージIAの5年生存率はほぼ100%、ステージI全体でも90%以上です。進行してから見つかると治療が難しくなり、生存率も下がります。だからこそ、定期的な検診での早期発見がとても重要です。

胃がん検診、ABC検診ってどんなもの?

胃がん検診について、聞いたことはあってもどんなものかよく知らない、という人が意外と多いです。ここでは『胃がん検診』と『ABC検診』について解説します。

自治体の胃がん検診

『胃がんを早期発見・治療につなげる』ことを目的として、自治体(市区町村)が行っている検診事業のひとつです。問診と胃部X線検査(いわゆるバリウム検査)もしくは胃カメラ検査を行います。対象年齢、受診の間隔、受診条件(バリウムか胃カメラか)、自己負担額などは、自治体ごとに異なります。 胃がん検診を受けられるクリニックはありますが、これは胃がん検診をクリニックに委託している自治体に限ります。委託がなければクリニックで胃がん検診を受けることはできませんので、わからない場合は市区町村にお問い合わせ下さい。 なお、当院がある東京都江戸川区においては、江戸川区医師会の運営する検診センターでのみ胃がん検診を受けることができます。

ABC検診(胃がんリスク検診)

いわゆる ABC検診(または「胃がんリスク検診・胃がんリスク層別化検診」)は、胃がんそのものを発見する検査ではなく、「将来胃がんになる可能性(リスク)」を血液検査によって評価するものです。 具体的には次の2つを測定して判定します。 ①ピロリ菌感染の有無(血清抗体価) ②胃粘膜の萎縮の程度を反映する血清ペプシノゲン値(PG値) これらの結果をもとにA〜D(あるいはA〜E)群に分類し、それぞれ「胃がんの発生リスクが低い〜高い」グループに分けます。

ピロリ菌 ペプシノーゲン 区分 判定
(-) (-) A群 正常
(+) (-) B群 異常(リスクあり)
(+) (+) C群 異常(高リスク)
(-) (+) D群 異常(極めて高リスク)


※ ピロリ菌除菌後の方は検査値によらずE群とします。 B~D群に該当する場合、ピロリ菌感染の可能性があるため、消化器内科を受診して胃カメラ検査を受けることが必要です。ピロリ菌感染が確認された場合は除菌治療を行い、その後も定期的な胃カメラ検査が必要となります。 E群の場合、1~2年ごとの定期的な内視鏡検査が推奨されます。 ABC検診は、クリニックなど医療機関で受けられますが保険適用外です。ただ、自治体が主導して行っている場合もあり、その場合は通常よりも費用の自己負担が軽減されることが多いです。

胃がんを予防するには~ピロリ除菌と胃カメラ検査~

病気の予防には一次予防と二次予防があります。一次予防はそもそもの病気の発生を防ぐこと、二次予防は病気を早期に発見するために行うことです。胃がんの予防には以下のような方法があります。


● ピロリ菌の除菌(胃がんの一次予防)

日本人の胃がんの90%以上はピロリ菌感染が原因です。健康診断のピロリ菌検査や胃がん健診、胃カメラ検査でピロリ菌感染が見つかった場合、除菌治療を行います。除菌に成功することで胃がんの発生リスクを40-50%も下げることができます。ピロリ菌の除菌は最も有効な胃がんの一次予防法です。


参考文献)
Ford AC et al. Eradication Therapy to Prevent Gastric Cancer in Helicobacter pylori-Positive Individuals: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials and Observational Studies. Gastroenterology. 2025;169(2):261-276.


● 定期的な検診(胃がんの二次予防)

胃がんの検診にはバリウム検査(X線胃透視検査)と胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)があります。バリウム検査は安価で有効ですが、ごく早期の胃がんを見つけることは困難です。早期の胃がんを見つけるには胃カメラ検査しかありません。

40歳から胃がんの罹患率は上昇します。特にピロリ菌感染歴のある方は胃がんの発生リスクが高いため、ガイドラインで1~2年ごとの胃カメラ検査が推奨されています。ピロリ菌感染歴がない方でも全く胃がんの心配が不要ということではありませんので、数年に1度の胃カメラ検査をおすすめします。



胃がんは予防できるがんです。初期には症状が出にくいため、定期的な検査が非常に重要になります。胃カメラ検査を定期的に受けていれば、早期発見・早期治療により多くの場合で治癒が可能です。

江戸川区船堀駅から徒歩3分にあるアンカークリニック船堀南では、診療日には毎日胃カメラ検査を実施しています。当院では内視鏡指導医、専門医が、がん専門病院と同等の精度で検査を行っています。

「不安な症状がある」「家族に胃がんの人がいる」「ピロリ菌が気になる」「健康診断の胃の検査で異常があった」、そのような方は是非一度、当院へご相談ください。

記事監修者

アンカークリニック船堀南院長

野坂 崇仁 医師

東京都の三次救急病院やがん拠点病院で救急から慢性疾患、指定難病、がんに至るまで全ての消化器疾患の診断、治療からフォローアップまで診療に従事し2024年8月より現職。

<略歴>
2012年 東邦大学医学部卒
2012年 厚生中央病院 初期研修
2014年 都立墨東病院 消化器内科後期研修
2017年 がん研有明病院 出向
2018〜2023年 都立墨東病院 消化器内科
<資格など>
日本内科学会認定医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本肝臓学会肝臓専門医
日本消化器内視鏡学会関東支部評議員
難病指定医

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